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かちうんまけうん

勝ち運負け運

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页

青空文庫

と菊太郎君は這い寄って、机の上の原稿に手をかけた。

「いけないよ」

「何故?」

「未だ下書だ。読んでも分らない」

と僕は取り上げてしまった。菊太郎君のことばかり書いてあるから、目の前で読まれては困る。

「恋愛小説だな、君のことだから」

と菊太郎君は幸いに誤解してくれた。

「うむ。恋愛場面のない小説は味のついていないアイスクリームだ」

「うまいことを言うね。君が考えたのかい?」

「無論さ」

「その分なら書けるかも知れない。考えて見ると、君は僕と違って、作文が得意だった」

「駈け出しの文士ぐらいには書ける積りだ」

「幽香子さんを貰う時のことを書き給え。あれはあのまゝで恋愛小説になる」

「まあ、オホヽヽヽ」

と妻は寧ろ満足のようだった。

「君と久子さんのことも書くよ」

「書く値打が充分ございますわね。オホヽヽヽ」

「あれは針小棒大に伝わっているんです」

「いや、僕は初めから関係しているから、そうは言わせない。君のこそ、そのまゝ小説だ」

と僕は急所を握っている。

「お手軟かに頼むよ」

「無論然るべく潤色するさ」

「余り貰いたがったように書き立てられると、奴、増長する」

「まあ。奴なんて」

と妻が咎めたら、