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かちうんまけうん

勝ち運負け運

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页

青空文庫

「さあ」

と僕はこゝで久子夫人の手前、博識を衒う気になって、

「誰だったか、一寸度忘れをしてしまったが、三つ四つの時に女王陛下の御前へ出て、玉手を触れていただいた記憶があるといっている。これは確か瘰癧の直るおマジナイだった。女王陛下というのだから、英国だったろう。容易に拝謁が叶うところを見ると、貴族だったに相違ない」

と長々しくやり出した。

「この先生、甚だ覚束ない。これじゃ何処の話だか分らない」

「三つ四つの頃、途上乳母車の中からビスマルクを見かけて喜びの声を立てたら、ビスマルクも馬上から挙手の礼を返して笑って行ったと自伝に書いている人がある。これは独逸人だ」

「名前は?」

「忘れた。音楽家だったか、画家だったか、兎に角、有名な芸術家だった。後年出世をしてから、ビスマルクに会って……」

「後年出世をしたから、有名な芸術家になったのだろう?」

と菊太郎君は久子夫人に頭の働きを見せる積りか、突如揚げ足を取った。

「然うさ。後年ビスマルクに会って、途上交驩の昔話に及んだら、ビスマルクは些っとも覚えがないと答えたそうだ。それでその芸術家は自分の方が鉄血宰相よりも頭が好いと言っている」