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かちうんまけうん

勝ち運負け運

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页

青空文庫

さて、使命を果して来た僕は菊太郎君のところへ寄って、矢田家の方の形勢を詳細に話した。此方の事情に暁通しているから、同じことを見聞しても、高野君よりは要領を得易い。看護婦の秋山さんが先方の奥さんの身寄だという事実には菊太郎君も驚いた。

「世間は狭いね、矢っ張り悪いことは出来ないや」

「本当だよ。実は僕もドキンとしてたんだ。君は何か覚えがあるだろう?」

「何ういう?」

「秋山さんは若くて一寸綺麗だ。君は病中何かよろしくない冗談を言っているだろう?」

「大丈夫だ。生死の境だもの、そんな余裕はなかった」

「肥立ちになってからさ」

「謹厳そのものだったよ。漸く助かったんだもの」

「矢田夫人は丁度好い幸いにして、秋山さんに君のことを訊くぜ」

「訊いて貰おう。結構だ」

「そう楽観出来るのかい? 病中のことをよく考えて見給え」

と僕は念を押した。秋山さんの出現は若し好いとすれば非常に好い。しかし悪いとすれば致命的だ。

「天地に愧じない積りだ」

「しかし随分ダラシのないことがあったぜ。失禁演説なんてものは決して推薦にならないよ」

「あれは熱が高かったからさ。自分でも覚えがないんだから、僕の責任じゃない」