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かちうんまけうん
勝ち運負け運
佐々木 邦
「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页
勝とうって気もないんだ。ただ負けなければ宜い」
「成程ね。僕も勝とうって気はない。親の教育が徹底しているんだね、これは。ただ負けなければ宜いと思っている」
「しかし矢っ張り一種の競争だ」
「その競争を小説に書くんだよ。今までのところを」
「ふうむ。それで二人の自叙伝だと言ったんだね」
「然うさ。異存ばしあるまいな?」
「君の方が勝つところばかり書いちゃ困るよ」
「そこは怨みっこのないようにする」
「恋愛問題も書くのかい?」
「無論さ。味のないアイスクリームは拵えない」
「馬鹿なことを書き立てられると、僕は妻に胸倉を取られる」
「ハッハヽヽ。本音を吹いたね」
「然るべく加減してくれよ」
「現実暴露さ。どうせ折紙がついているんだから、凡人としての二人の生活をそのまゝ書く分には別に苦情も出まい」
「兎に角、僕の自叙伝が入るなら、僕は条件をつける。発表前に検閲させて貰う」
「見せる丈けは見せてやる」
「これは僕も一つ書くかな。負けちゃいられない」
「久子さんに手伝って貰い給え」
「馬鹿にするなよ」
と菊太郎君はもう競争意識を動かしていた。しかし小説は逆立ちをしても書けまい。文筆の才は絶無だ。