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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
部屋の中でもマスクをかけて、口の辺を隠しているでしょう」
「その上、義手と義足ね」
「そうそう、左の手と右の足が、自分のではないのよ。ご飯をたべるのだって、それや不自由なの」
「あのマスク、ご飯の時には取ったでしょう」
「エエ、取ったわ。マア、あたし、ゾーッとしてしまった。マスクの下に何があったと思って?」
「何があったの?」
相手の女中は、彼女自身ゾッとした様に、薄暗い廊下の隅を見廻した。
「何もないの。いきなり赤い歯ぐきと白い歯がむき出しになっているの。つまりあの人は唇がないのよ」
変ないい方だが、その客は、半分の人間であった。つまり身体の二分一は自分のものでないのだ。
一番目立ったのは唇だが、鼻も醜く欠けて、直接赤い鼻孔の内部が見えているし、眉毛が痕跡さえなく、もっと不気味なのは、上下の眼瞼に一本も睫毛がないことである。女中が頭の白髪も鬘ではないかと疑ったとは尤もだ。
その外、左手が義手で、右足が義足、身体中で満足な部分といったら、胴体ばかりの人間だ。
あとで、その男――蛭田嶺蔵という名前だ――が、問わず語りに話した所によると、先年の大震火災の時、手足を失い、顔中やけどをしたので、この大怪我に命をとりとめたのは奇蹟だと、それが却て自慢の様子であった。