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ちきゅうとうなん

地球盗難

海野 十三

「ラヂオ科学」1936(昭和11)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,072 字 · 168 页

青空文庫

結局彼がその間に無駄には見えぬ仕事をしたとすれば、それは東京に在る中央気象台の中屋技師に宛てて長文の電報を発するよう、下宿のお内儀さんに依頼したことだけだった。

苦悩の三日間が過ぎて、次の朝階下へ顔を洗いに下りてきた彼の顔には、大分苦悩の跡が薄らいだように見えた。

「……オヤ先生、きょうは顔の色が大分良くならはったのう」と宿のお内儀がニコやかに声をかけた。

「餘り勉強に凝ると、身体に障っていけんぞナ」

学士は答を笑いに紛らせながら、冷い水で顔を洗った。井戸端から外を見ると、今日も連山には一点の雲も懸っていない好天気だった。油蝉がミンミンと、早くも街道の樹の幹に停って喧しく鳴き立てているのが聞えた。学士は濡れ手拭を頭に載せたまま、垣根のところまで歩いていった。そこからは、問題の怪人物辻川博士の洋館がよく見えた。その反り立った赤い屋根瓦は、朝日をうけて血を吸ったように毒々しい色に映えていた。

「お内儀さん。あの家に住んでいる辻川博士というのを見掛けたことがあるかネ」

「辻川博士のことかネ。……」

と問いかえして、彼女は悪魔を払いのけるように額の前で手を振った。