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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
イヤ、そればかりではない。段々訊問を続けている内に、実に恐ろしいことが起った。係長が業をにやして、賊の頬をなぐったのがいけなかった。それまでは、ろくな答えはせぬにもせよ、兎も角おとなしく応対していたゴリラ男が、その一撃に腹を立てて、俄かにあばれ出したのだ。
彼は、ギャッという様な、不思議な叫び声を発しながら、歯をむき出して、本物のゴリラそっくりの恐ろしい相好になって、係長に飛かかって来た。係長はすんでのことに、この猛獣の為に食い殺される所であった。イヤ、決して誇張ではない。あとになって、実際ゴリラ男の為に噛みつかれた巡査さえあったのだから。
彼の昂奮は仲々静まらなかった。数日の間あばれ続けた。警官達の折檻が加われば加わる程、彼の兇暴はつのって行った。そして、とうとう、一巡査が彼の牙にかかって、半死半生の目に逢う様な椿事を惹き起すことになった。
人々は、この男が、人類に属するか、獣類に属するかを疑わねばならなかった。猿にしては人間の肌を持ち人語を解するのが変であった。併し、人間にしては、余りにも力強く兇暴であった。
遂には、この超人の為に、警視庁の地下室に、動物園の檻が運び込まれた。