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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
蘭堂は自問自答しないではいられなかった。どうもおかしいのだ。うら若く美しい未亡人が、小説家と交りを結んだり、手紙を出したりするのが、已に変である。しかも、彼女はもう、小説家の文名にあこがれる年頃でもない。もっと別の気持があるのだ。つまり「わたくし、お酌させて頂きます」という艶かしい言葉が象徴している様な、一種の気持があるのだ。と考えて来ると、彼女から貰った手紙の、思わせぶりな文章まで思出される。
蘭堂という筆名は甚だ不意気だけれど、彼はまだ三十歳の青年作家で、作家仲間でも評判の美丈夫であったから、この種の誘惑には度々出会っている仕合者だ。従って、いくら相手が美しいからと云って、直様感激する様なお坊ちゃんではなかったし、彼には伯爵令嬢花園京子という寸時も忘れ難い人がある為に、この若き未亡人の優遇は、当惑の外の何ものでもなかった。
ビクビクしながら呑む酒は、酔いとならず、相手の夏子の方が、グラスに一つ二つのお相伴に、ホンノリと上気して、段々多弁に艶かしくなって来る。
「もうお暇します。おそくなると家で心配しますから」
辞退をすると、
「家とおっしゃって、奥様もいらっしゃらない癖に」