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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

十五分程話をして、その妙な男は帰って行ったが、その時彼を送り出した書生の話では、別に変った様子も見えなかった。

それから一時間程して、女中が京子の居間へ中食を知らせに行くと、そこにいる筈の京子の姿が見えないので、それから騒ぎになって、邸中を隅から隅まで探し廻ったが、まるで蒸発してしまった様に、どこにも彼女の影さえなかった。

調べて見ると、外出着もちゃんと揃っているし、履物も一足も紛失してはいない。まさか若い女がはだしで外出したとは思われぬ。どうもさっきの客が怪しいというので、彼の持参した手紙を探して見たが、その手紙さえ消えてなくなった様に、どこにも見当らぬのだ。

京子の友達や親戚などへ電話で問合せたがどこへも行っていない。警察へも頼んであるけれど、まだ何の吉報もない。もう外に手の尽し様もなく、ただ家中のものが青い顔を見合せて溜息をつくばかりであった。

そこへ探偵作家大江蘭堂が飛込んで来たのだ。伯爵夫妻が待構えていた様に、彼を招じ入れたのも道理である。

「で、その妙な男が帰る時、京子さんは居間に残っていらしったのですね。その時何か変った様子は見えませんでしたか」