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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

伯爵が寝室へ行く様に勧めても、娘の生死が分るまではと肯じなかった。

「僕はこう思うのです」

騒ぎが静まると、蘭堂が話しつづけた。

「その京子さんを訪ねて来たロイド眼鏡の男というのが、てっきり恐怖王一味の奴で、この部屋でお嬢さんが声を立てぬ様にして置いて、その右腕を切断し、それを持帰って、どこかで入墨をした上、僕に見せびらかしたのです。奴等の残酷極まる遊戯です。殺人広告です。

しかし、不思議なのは、腕丈けなら人目につかぬ様に持帰る事も出来たでしょうが、京子さんの死骸……イヤ、死骸と極った訳ではないのですが……その京子さんの身体をどこへ仕末したか。これが第一の疑問です。

それから、もう一つは、書生さんがこのドアの外へ来た時、中からお嬢さんの声で、お客さまを送り出す様にと命じられた点です。腕を切とられた重傷者が、そんなあたり前の口を利く筈はないのですからね。

それでは、京子さんが腕を切られたのは、それよりもあとで、今の妙な男はこの事件には関係がないと考えるべきでしょうか。

イヤ、イヤ、恐らくそうではないのです。賊は犯罪の捜査をむつかしくする為に、巧妙なお芝居をやって見せたのです。