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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

「すてきだ。一分の隙もない花婿様だ。ところで、写真屋の方は?」

「もう来る時分です。やっぱり十時と云って置きましたから。……」

と云いさして、紋附袴のゴリラはギョッとした様に言葉を切た。

「オイオイ、何をそんなにびっくりしているんだね」

「アレ」ゴリラはどもりながら、「アレが例の仏様ですかい。アレが」

彼が驚くのも無理ではない。床の間を背にして、シャンと坐っている花嫁御は、どう見ても死人とは思われぬ。唇をキュッとゆがめてニッコリ笑っている顔の愛らしさ。今にも両手をついて、目の縁をポッと赤くして、小笠原流のご挨拶でも始め相に見えるのだ。

「よく出来ただろう」

「全くどうも、驚きましたね。これが死骸ですかい。あっしゃ、こんな美しい死骸なら、本当に女房にしたい位のもんですよ」

「だから婚礼をするんじゃないか」

「だって、並んで写真を写す丈けじゃ物足りないね。何とかならないもんですかね」

「ハハハハ、何とかといって、死骸を何とする訳にも行くまいじゃないか」

そうしている所へ、玄関に人の声がした。写真屋が来たのだ。

「サア、そこへ並んで坐るんだ。気取られてはいけないぜ。グッとすまして、口は利かない方がいい」