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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
かれの面や眼ざしはその日、わけても市民たちをニコやかに見まわしているふうだった。
「何事もないらしいが?」
市民たちは辻々にあふれ出て、信長を拝した。ほっとした安心がもりあがる歓呼となって、わあッというどよめきの波になった。
するとその歓呼の辻から、ふいに一発の鉄砲が鳴りとどろいた。弾丸は信長の身をかすめたが、信長はけろりとしたのみで、音のした方を振り向いただけだった。
当然――
まわりにいた部将たちは、馬をとび降りて、曲者を捕えにどっと駈けたが、かれらよりは、市民たちのほうが勃然と一致して、
「ばか者を捕えろ」
と、怒った。
市民は自分たちの味方だと考えていた曲者は、案に相違したので逃げ場をうしない、忽ち抑えられてしまった。山門第一の勇僧といわれていた法師で、捕まってもまだ、
「仏敵め、魔王め」
と、信長を罵っていた。
信長は、眼のなかにチリがはいったような顔もしていない。予定どおりかれは道をすすんで、やがて皇居に近づくと下馬した。
神泉で手をきよめ、しずかに御所の門前へあゆみ寄って、そこに坐った。
「一昨夜来の猛火、さだめし内裏におかれても、お愕きのことと拝しまする。