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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

とをさした二つだった。

「むだです。ただ文書や使者をもってなさる詰問では、到底、うけつけますまい」

摂津で信長を迎えた荒木村重はそういった。また、義昭を去って、姿をかくしている細川藤孝も、陣見舞に来て、

「おそらく御自分の最後の日を、眼に見ぬうちは、将軍家の覚醒など、望み得ないことでしょう」

と、嘆いた。

信長はうなずいた。よく分っているらしい。けれど叡山でやった果断猛行を、ここでは用いる必要もないし、また二度も同じ手法をくりかえすほど策の乏しい彼でもない。

「京都へ返せ」

四月四日、信長は発令したが、それは単に、大兵の行列を庶民に示す運動にすぎなかった。

「それ見い。長陣はゆるさぬ。信長がまた例のごとく、岐阜に不安をおぼえ、あわてて兵を退いて行くことを」

義昭は、左右へ云って、得意であった。

けれど情報の次々とはいるに従って、顔色を変じはじめた。

こんども洛外を通過し去るものと多寡をくくっていると、大坂からの沿道、示威運動をかねて、悠々と流れてきた織田の大兵は、そのまま洛中へはいって来た。

そして、鬨の声もあげず、演習よりもしずかに、いつのまにか義昭の二条の第をとりかこんでしまった。