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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
などと親しみぶかく云いかけられたので、彼女は、自分の家も、この君の端につながる一家族であったことに気がついて、すっかり打ち解けた気もちになった。
「めっそうもないおことば、ほかならぬ戦陣の留守、安穏で暮していられるさえ、朝夕もったいないこととぞんじておりますのに、さびしいなどと考えては、罰があたりましょう。ただお母あ様には、はや御老年でございますから」
云いかけると、信長は笑い声にうち消して、
「いやいや、女ごころは女ごころ、包まいでもよい、さびしいのは当りまえじゃ。留守のさびしさを、慥と、噛みしめてこそ、持った良人のよいところも一しお深く分るというもの。誰やらの連歌にも、下の句はわすれたが――
旅に出て妻ありがたし雪の宿
とやらあったぞ。おそらく筑前も待ちわびておろう。それに今浜の城は新しい。戦陣の留守は長く辛かろうが、ふたたび家庭に会えば、また新妻新聟の頃の思いを新たにすることができる。軍人ならでは味わい得ぬよろこびといえような」
「まあ、そのような……」
寧子は、襟もとまで紅くして、両手をつかえていた。そぞろ、十六の年が、想い出されているにちがいない。