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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

――信長はそう見ながら微笑した。

食膳が饗された。朱の杯も添えてある。信長からそれをうけて、ひと口、美しく飲んだ。

「寧子……」

笑いまじりに、信長はまた気がるにいう。

「はい」

何ごとかと、寧子はひとみをあげた。ようやく正視することが出来た頃おいである。すると信長がいきなり云った。

「ただ、悋気はすなよ」

「……はい」

何の気なく答えてしまったが、寧子はあとから、かあっと熱くなった。というのは、良人の秀吉がいつか、自分でない美しい女性をつれて、この岐阜城にあがったという噂をきき、ふと、ふだん口に出さないことを、誰やら側の者にもらした覚えがあったからである。

「あれはな。筑前のことじゃ。――あれはちと、そのほうの行儀はよくないようだ。……しかし、茶でも、あまり無疵は風情がない。たれにも一癖はあるものよ。それも凡物の大疵は困りものだが、藤吉郎ほどな男は、数ある男のうちでまず少ない器だろう。そもじはよくもあれを見つけたな。信長は平常から感じおった。いったい、かような男を生涯の持ちものと選んだ女子とはどんな女子であろうかと。――それをきょうここで出会うて、なるほどと思うた。