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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「これッ、面を上げんか!」

堀尾茂助も云い、家臣たちが、側から叱咤したが、それでもなお、彼は雑巾のように、べたと、顔を伏せているきりだった。

「つんぼか! 汝は」

蜂須賀又十郎が、遂に癇癪をおこして、襟がみへ手をのばしかけると、藤吉郎は、

「待て。つんぼではない。すこし仔細がある者だ。――手荒にするな」

と、制した。

そして、じっとそそいでいた眼を離すと、歩み寄って、土まみれな男のそばへ片膝を折った。

「於福。……なぜ顔を上げないか。そちは尾張新川の茶わん屋捨次郎の息子、福太郎に相違あるまい」

「……いえ。いえ違います」

男は、胸に顔をうずめたまま、身をそむけて、全身でわなないていた。

「はははは」

藤吉郎は、わざとのように笑って、しかも親しげに、その肩を軽くたたいてやった。

「なぜそのように恐れるのだ。尾張新川は、わしの故郷中村の隣村。それだに懐かしいものを、わけてわしと其方とは、七つ八つの腕白時代からよく遊んだ幼友達ではないか。……こら! おたんこ茄子の於福! あはははは、何を泣くか。その年になっても、未だにそちは泣虫とみえる」

「……め、め、面目次第もございません」