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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

――当然、中軍との間が約半町も隔てられた。

「……見合わせよう」

一益のことばである。

部将たちは意外として、

「こよいの夜討をですか」

と、ひとしい眼をみはった。

「そうだ。早く、先鋒を呼びもどせ」

「はっ」

なぜと、問い糺している場合でもない。四、五騎がすぐ駈けた。後続隊へも、

「もどれ。――戻るのだ」

と、物頭たちが、いぶかり惑う足なみへ、俄に、令を伝えている。

矢田山へはまだ一里の余もある。

どうして急に大夜襲の決行を見あわせたのか、城へ帰った一益の口から親しく説明されるまでは、誰にも、その意が分らなかった。

「いかぬわい。さすがは筑前、疾くに夜討を備えておる。なに、どうしてそれが分ったというか。……はて、愚なる問い、それしきの心耳と機眼がのうて、戦ができるかよ。見ておれ、やがて物見が帰って来て告げることばを」

程なく、大物見の者が帰城して、帷幕へ詳細を報告した。それによって、一益の言が過っていないことがより明瞭になった。敵の矢田山附近には、一日のうちに、新たな柵と塹壕が急設されており、各陣地には、炎々と篝が望まれ、夜半といえ、戦気はみちみち、少しの間隙も見えなかったという。