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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

そこを、城壁の上からも、城門の上からも、一斉に狙撃を浴びせかけられた。

これは城方の老巧が、出撃の味方を滞りなく収容する奇策だったこというまでもない。瞬時にして、城門の鉄扉はかたく閉められていた。

そして、次には、それらの者が城壁の上に現われ、

「寄らば、これぞ」

と、攀じ登ろうとする寄手の頭上へ、火矢乱石を浴びせかけた。

その中に、城を離れて、動かない一軍団があった。敵とも味方とも分たぬ位置に黒々と見えるのである。

山野は暗紫色に暮れかけ、落日の射るところだけが、草も地も赤かった。

秀吉は、山上の床几場から、ふと、不審な一軍が野中にかたまり合ったまま、さっきからじっと動かずにあるのを認めて、

「はて」

と、小手を眉に翳し、

「あれや、誰の組だ?」

と左右へたずねた。

小姓の中の石田佐吉が、きぱと答えた。

「お味方の勢ではございませぬ」

「なに。味方でない」

驚いたらしい。

秀吉はさらに凝視していた。

乱軍の果て、敵は悉く城中へ引きあげ、味方はそれに尾いて皆、城壁の真下へなだれ寄っていた際なので、今頃なお敵の一軍が、この本陣地の近くに、じっと、居残っていようとは思いもしていなかったのである。