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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

「いかにも、大崎だが」

「私は、柴田勝豊様の臣、野村勝次郎と申し、只今は、山路将監の麾下に従いて、神明下の二番櫓に陣しておる者です」

「その御辺が、深夜、何用があって、本丸木戸を忍びやかに叩かれるか」

「私を、木村隼人佑殿の所へ、御案内ねがいたいのです。……と、だけでは御不審でしょうが、折入って、しかも火急、お耳に入れねばならぬ一大事があるので」

「それがしからの取次では、打明け難い程のことか」

「直々ならでは申しあげかねる。念のため、これをお預け申す。一刻も争う大事、何とぞ俄かにお計らい下されたい」

野村勝次郎は、太刀と小刀を外して、柵の間からそれを宇右衛門の手へ渡した。

宇右衛門は、彼の誠意を見とどけて、自身門を開いて通した。そして部下十名に囲ませて、自身その先に歩み、木村隼人佑の小屋へ導いて行った。

まず、宇右衛門が先に入って、侍臣を通じ、隼人佑の起床を促した。戦陣なので、深夜早朝のけじめはない。隼人佑の室にすぐ燭がゆらいだ。小姓二名、やがて出て来て、

「お通りあれ」

というのである。

部下十名を外に残し、宇右衛門は野村勝次郎を伴って、一室へ入った。本丸とはいえ仮普請なので、居室はほとんど板囲いに過ぎない。