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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

まちがえば、死地となる中入りの先鋒に立つことを、かくばかり正直によろこぶ甥を、勝家は、心には歎賞しながらも、なお固く、戒めた。

「くれぐれも申しおくぞ。岩崎山、大岩山の砦を踏みつぶし、目的を遂げたときは、速やかに兵をまとめ、味方の後陣まで風の如く退けよ」

「はい」

「いうまでもないが、戦は、切レ(兵家ノ熟語、開戦前ノ隔縁状態、或イハ退陣ニ際シテ追撃ヲ断ツ手際ナドニイウ)が大事じゃ。わけて、中入りの戦いに、切レを取り損じては、九仭の功も一簣に欠こう。くれぐれも、引揚げの機を誤るなよ。風の如く赴いて、風の如く去れよ」

「御訓戒、よく心得おきまする」

希望はすでに容れられたので、彼も至って素直だった。勝家は直ちに使番を呼び、各陣地の主将をこれへ集合した。――この日、帷幕に会する者、前田利家父子を始めとし、勝家の養子勝政、不破彦三勝光、徳山五兵衛則秀、金森五郎八長近、原彦次郎房親、拝郷五郎左衛門家嘉、長九郎左衛門連龍、安井左近太夫家清など。ここに参じては去る将星たちの唇元にも、何やら厳しいものが結ばれていた。

たそがれまでに、令は悉く行きわたり、諸隊の準備は万端整い終ったらしい。