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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
09 第九分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页
「か、かくまで……お働きのうえは、も、もはや、お心のこりはない筈。……ぞ、ぞう兵どもの手に、かからぬまに」
誰か、またも一人の味方が、瀬兵衛の馬の口を曳ッぱって、驀しぐらに、砦の内へと走っていた。さすがの瀬兵衛も、息はあえぎ、眸は始終、火焔を見ているように、熱くばかりあって、物なべて、霞んで見える。
「だ、だれだ?」
「ふ、ふ、淵之助重定です」
「お。……重定か。間道のふせぎは。……か、間道は如何した」
「破れました。無念です」
「何を歎く。――桑山、高山輩こそ、そういうがよい。存分、闘いぬいた俺どもには、悔いはない」
「いえ、敵の計に乗ったのが、残念と申したのです。滅多に、本丸の囲いまでは、敵を入れることではないぞと、一人が十人にも当って、鎬を削っていましたが、裏山の下小屋に、俄に、火の手が揚ったのを見――すわや、敵は後ろを巻いたりと崩れ立ち、遂に、何処の防ぎも、敗れ去りました」
「では、あの火の手は、裏山の小者小屋か」
「敵の徳山則秀が、わずかの人数を廻して、火を放った煙に過ぎませぬ」
「――あ。待て」
瀬兵衛は突然、あぶみに突っ立って、
「淵之助、わしを、どこへ導くつもりだ」