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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

何がだよ、おい」

べつの声がそれにいう。

「来てみろ」

と、少し離れた所から呼んでいる。それに応じて、ガサゴソと灌木を踏む音をさせ、哨兵たちは山鼻に影をかさねていた。

東南方を指して、

「妙に、彼方の空が、明るいような気がするが?」

ひとりは云ったが、誰の目にも遽かに認め得るほどな異変でもない。

「何処がじゃ」

「いや、そんな方角じゃない。――ほれ。あの大きな檜の右手から、ずっと南の方へかけて」

「なにかと思えば――」

と、みな笑った。

「あれは大津か黒田村のあたりで、百姓が何か焚いておるのじゃろ」

「郷に百姓はいないはず、みな山へ逃げこんでおる」

「では、木之本に屯している敵の篝でもあろうよ」

「何の、雲の低い晩なら知らず、この冴えた夜に、あのように空を染めているのはおかしい。……オ、ここは眼をさえぎる樹が多いが、あの屏風岩のてッぺんに登ればよく見えよう」

「――止せ。あぶない」

「踏み外したら谷間だぞ」

止めたが、ひとりはもう攀じ登っていた。蔦かずらに取ッついて。

登りつめた一ツの人影が、猿のように岩山の頂に見えた。――と思うと、その兵の口から出た叫びだった。

「あっ。