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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

「馬のいななきが聞えた。――見て来い」

「はっ」

と対馬がそこの幕を上げたのと出あい頭に、やあと、いう者があった。清水谷に陣している佐久間勝政の部下今井角次なのである。

「一大事です」

まず、角次の第一語に、

「何の報らせか」

と、玄蕃允の声も弾み上がった。――よほど慌てているらしく、角次のことばは、火急の報告として、ひどく簡明を欠いていた。

「――今、物見の知らせによりますと、美濃路から木之本まで数里の間、夥しい松明や篝が、赤々と動き渡り、ただならぬ様子とのことにござります。――勝政様にも、必定、敵の移動ならん、早くお耳に入れよとのことに、駈け参りました」

「なに。美濃路から火の列じゃと? ……」

まだ玄蕃允には腑に落ちぬ顔いろであった。しかし、清水谷からの急報とひと足ちがいに、蜂ヶ峰の原房親からも、同様な異状をこれへ急告して来た。

陣中の将士は一斉に起きて、暗いざわめきの中にあった。忽ち、ここの波紋が拡がって、

(美濃路から秀吉がひっ返して来た――)

と伝わったからである。

が、玄蕃允はなお、

「よもや、まだ?」

と、半信半疑の体であった。固持する自己の公算からも割りきれない面持なのである。