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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

したが、殊のほか、見事な相手の振りに、今も忘れずにおりますわえ」

すると最前から聞き入っていた亭主の荻野河内が、

「近頃、めずらしいお話を承った。その折の武者の具足は、朱漆とは御覧なかりしか?」

法斎は、そうだと答えた。河内は、たたみかけて訊ねた。

「指物は、然々。――また、そのとき尊公の革胴に、槍の痕は残らざりしか」

「なかなか、仰せの通りじゃが……」

と法斎が、いぶかると、河内は、きッと改まった。

「客衆多くのなかで、よいお物語りを出されたものかな。その折の朱具足の武者こそは、この河内にて候う。仰せには、突き廻されて、引取ったりと聞えたが、迷惑な御記憶ちがい、末代までの家名にもかかわる儀、慥と、御詮索の上のこと、まいちど承り申したい」

開き直ったので、大議論になった。双方ゆずらないのである。

ところへ、河内の一子、生年十七歳の若者が、台所を手伝っていたので、袴も着けず、それへ来て、二老の前に両手をつかえ、

「さてさて、御老人たちは、戦場からお残り遊ばした余生を、恥よとも、勿体ないとも、思し召さず、よくもまあ、退いた退かぬなどと、愚かな喧嘩がおできになりますな。