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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

「玄蕃の咎めだては止めい。万々、この勝家の不覚にほかならぬ。――それを聞くは、勝家として、身を責めらるるより辛う思う」

と、いった。

そして殊さらに、飲め飲めと左右にすすめ、櫓々の武者たちへも、庫中の銘酒を豊富に配って、

「名残を存分にせよ。高吟も苦しからず」

と伝えさせた。

櫓々から、唄が聞え、笑声が流れてくる。ここの勝家の前でも、鼓が鳴り、小舞の銀扇が、優雅な線を描いた。

「むかし、右府(信長)様には、何ぞというとすぐ立って舞われ、匠作もせずやと、よう強いられたものじゃが、不器用を愧じ、つい致さなんだが、今にして思えば惜しいことを致したわ。こよいのためにも、せめて、一さしは、習うておくであったにのう」

勝家は、そんな述懐を洩らした。

思うに、彼の胸にはいま頻りに、旧主が懐かしまれていたのであろう。

それと、また。

当時の一卒猿面郎のために、かく絶望のほかない窮地に追い詰められたとはいえ、せめて世に恥なきような死に花だけでもと、ひそかに念じていたに違いない。

彼やまだ五十四歳。武将としては、これからともいえるのに、往年の概もなく、徒らに死に花のみを心がけて、