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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

が、その時。

早や、朝空の下だった北ノ庄城の周囲全面にわたって、前にもました銃声と喊声が一時に地を揺るがし始めた。

姫たちは、城壁の煙を見て、

「お母あさま。お母あさま」

と、絶叫し、泣きまどった。

「女童たちを、怖がらぬ方へ連れてゆけ」

秀吉は、それを家臣に託して、馬をッ、と烈しく呼びたて、直ちに、城の方へ駈け向った。

後に。――女童たちも長じて。

一の姫の茶々は、秀吉の側室に入って淀君となり、次の姫は、京極高次の正室に。また末の姫が、徳川秀忠夫人となって、家光を生んだことなど、戦国数奇の運命の綾は、史によって、人みなのよく知るところである。

九頭龍川の水をひいた外廓の二重濠は、容易に寄手の近づくを、ゆるさない。

が、外濠もついに潰えると、城兵は、大手の唐橋を、わが手で焼き落した。

火災が、多門櫓に移り、付近の兵舎にも飛火した。

城兵の抗戦は、予想外に烈しかった。

前夜からの寄手には、はや勝ったも同様という気分が、否み難くあったためでもある。

「怖いのは敵でなく、その驕りじゃ」

これは秀吉が陣々に高札させておいた通り、尠なからず気を遣ったところである。