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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

そして、なお素行の同書には、

――秀吉の是を奪ふに非ず。信雄、信孝の之を与ふる也。

と、この問題に結論を下している。

おおむね、衆評もこの結論には、異論ないもののようであるが、中国から山崎戦へかけての頃は、まだ天下に望みなかったという一事だけは、果たしてどうであろうか。

ともかく、信雄といい、信孝といい、この兄弟の凡庸だけは争えない。もし、兄弟心をひとつにするとか、或いは、どっちか一人でも英武にして時潮を知る眼を具えていたら、決してこんな破局は見なかったであろう。

信雄のお人よしな庸劣さにくらべれば、信孝はなお聊かは骨があった。才略なき鼻ッぱしには過ぎなかったが、尾張の野間まで逃げのびて、そこの一寺で腹を切った最期のもようも、さすがに、

(こうなること――)

と、覚悟していた様子で、めめしくはなかった。

かつて、野間の安養院には、寺蔵の墨梅の古画一幅があり、織田信孝が自刃の時、室の床に掛けられていたものといわれていた。血痕の刎ねが見えて、往時を偲ばせ、見るも哀れな一幅であるとて、後に、狩野衲永がそれに一詩を題したという。

夜窓如夢到西湖

月下見花思老逋