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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

子の忠興も同じように、秀吉の横顔を仰ぎながら、ひとつのことを思い出していた。それはかつて細川家の運命が大きな岐路に立ったときである。その去就に、家中を挙げて紛論のかわされた席で、父の藤孝がこういって、就く所を直指したことがある。

(自分はこの年まで観ることの稀れな人間を、今の世において二人まで見ている。ひとりは浜松の徳川家康、もう一名はまぎれもなく筑前守秀吉である)――と。

しかし、それを今考え出してみてもなお、若い忠興には(――そうかなあ?)と思われるのみであり、

(これが父のいうような、稀れな人だろうか。今の世に二人ぐらいしかいない程な大将だろうか?)

を疑わずにはいられなかった。――殊に、秀吉という実物を眼の前に見ていると、よけいにそう惑われてならない。どう見ても、それ程とは、思えないのである。

やがて、佐和山城中の一廓へ退がって、父子一室にくつろいでから、この気持をありのまま、父にいってみると、藤孝は、さもあろうといわぬばかりに、

「わかるまい。そちなどの器量と年齢では、まだまだ」

と、つぶやき、忠興の不服そうな眸に気づくと、若い者の心を察してまた云い足した。