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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
09 第九分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页
すなわち、誓書を以て、
「勝豊以下、家中一統、御手に属しますれば、以後のおさしず、宜しきように」
と、秀吉のすすめに応じて来たものである。
「よく分別した」
秀吉は満足そうに云った。約束にもとづいて、所領も旧により、長浜の城も現城のまま、勝豊に持たせておこうと確言した。
長浜の城は、清洲会議の結果、柴田家へ譲った物であるが、秀吉はそれを七月に明け渡して、同年の十二月には早や取り戻していたわけである。
当時、世人は、
(あの要地を、よくも思いきりよく)
と、彼の心事を測りかねていたものだったが、今となってみれば、それを柴田の手に委しておいたのは、実にわずか半年にも足らない間でしかなかった。
明け渡すにも、あっさりと、きれいであったが、取り返すにも、左の掌の物を右の掌へ移すぐらいな容易さに思われた。
がしかし、これは秀吉を中心に見た場合のことで、対者となった柴田勝豊の身辺は、この数日、颶風の巻くようなものであったに違いない。
越前へ援兵を求めるにも、積雪のために、到底、それは望んでも望み得ないことだった。
加うるに、養父勝家は、その後も勝豊にたいして、依然、辛く当ってばかりいた。