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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
09 第九分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页
「…………」
炎々の篝に迎えられ、秀吉は早や城内へ入っていた。その盛んな景観を見、最大級の歓びを抱いていた者は、秀吉にあらずして、秀吉の領民だった。
大手の欄干橋のほとりには、家中の士の家族が、女子老幼まで出て、自分を迎えていたのを見た。
また、城門に入れば。
多門櫓から大玄関までの上りから広前まで、およそ満城の家臣という家臣が軽輩まで残らず地にひざまずいて、われを迎えているのを見た。
ここへ来ると、秀吉は漆黒の駒の上から親しく、眼をもって、ことばをもって、
「オオ、みな息災よな。――達者でよい、達者でよかった」
と、歓びを共にしつつ通った。早やわが家に帰った心地とみえる。
駒繋ぎの前で、ひらと降り、手綱を扈従の手へ渡した後、一瞬、無量な感慨を面にして、城内を見ていた。
(さて、生命あったか)
今さらのようにそう思ったことであろう。
昨年の夏六月。
一去、高松攻めの兵を撤し、一鞭山崎をさして、故信長の弔い合戦に向ったときは、
(生きて再び還る日やある?)
と立った門口である。
あとに残した三好武蔵守、小出播磨守などへも、
(もし秀吉の敗れと聞えなば、わが眷族も悉く処分し、城中に家一宇も残さず焼きはらえ)