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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

何とよい機に、岩間三太夫とやらが、滝川を否応なく、筑前の一撃下に、引き出しておくれたではあるまいか」

そして、笑い出しつつ、その苦笑の下に、

「滝川とて、うつけじゃない。おそらく一益、あの禿げ上がった額をたたいて、ちと早かったと、臍を噛んでおるにちがいないわさ」

と、いった。

勿論、彼の肚は疾くにきまっていたが、伊勢経略の意表を、衆座の中で言明したのは、この日この時で初めてであった。

彼の口吻から見ても、岩間三太夫の無謀の挙を、彼がいかに天恵の機会とひそかに慶していたかが察せられる。

が、彼は決して、事を急ぐがために、順を過るような愚はしない。入っては朝を拝し、出でては三法師に謁し、なお評議の必要とてないが、ここに衆将を会して、その名分をいやが上にも明らかにしてかかった。

檄はここから発せられた。

領国の輩はもとより、友邦の諸将にも広く伝え、共にその正大の兵を安土に集合せんことを求めた。

あわれむべき盲策の持主。それは北ノ庄の雪深きところに、麗人お市御料人を室に迎え、

(――陽春、雪解けの時来らば)

と、むなしく自然を恃んでいた柴田修理勝家にほかならない。