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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
御諫言に出たわしが、かえって御意見を賜って退って来た」
「御不興でしたか」
「されば。――お前方の憂いは自国の民を知らぬものだと先ず仰っしゃられた。祭日の取締りを寛大にしたら、遊惰の風に狎れようなどという心配は、他国の民なら知らぬこと、信長の領民にはないとお怒りなされた」
「…………」
「今川領などの民は、上を見ならう下で、一年をだらだら暮しておるゆえ、年幾日かを、御奉公日とか、御加勢日とか称える例もあるそうなが、信長の持つ領民は、一年三百六十五日が、御奉公日であり、御加勢日であるのだ。たまたまの祭日や盆正月のみが、彼らの慰楽で、平常は日々自粛、日々奉公、弛みもない民だ。――また信長も、今川風の政治は民にいたしておらぬ! ……と、きつい御気色で仰せられた」
祭の夜が来た。
信長の令もあって、祭は例年以上、賑わっているらしい。清洲の城から万燈の灯の海を眺めても分るのであった。
「勝三郎、勝三郎」
広庭の暗がりに佇んでいた信長が、後ろへ呼ぶと、池田勝三郎信輝が、
「はッ。――何ぞ?」
と、側へ寄った。
信長は、笑みを含んで、
「忍ぼうか」
と、囁いた。
「お供いたしましょう」