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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

微罪は咎めるな、罪人は作るな、祭中は無礼講という高札もある。

恐らく、人違いと、その者のいうのは、ほんとであろう。放してやれ――というお慈悲である。放しておやりなされ。

と、藤吉郎も云い添えた。

「アア。ありがとう存じまする」

生命びろいした山伏は、勝三郎の手から解かれると、雀躍りしないばかりだった。

彼方にいる信長の影へ向って、大地から辞儀一つすると、真っ青になった顔を、月に俯向けたまま、直ぐ駈け去ろうとしかけた。

――と、信長は、

「待て。優婆塞どの」

軽く呼びとめた。

そしていうには、

「一命を助けてとらせた礼を残して行きやれ。儂たちも、節に合わせて踊ろう程に、そちの故郷の鄙ぶり一節唄うておみせやれ。盆唄でも、麦搗唄でも」

聞くと山伏は、ほッとした顔いろで、おやすいことと、手拍子打って、月を仰ぎながら鄙唄一つ謡った。

――それをきっかけに、踊りの輪はまた、旋りだした。だが信長主従は、もう輪の中にいなかった。

「猿」

と微行の帰り途、信長は訊いた。

「そちは、諸国を流浪したことがあるそうじゃが、山伏の謡うた盆唄は、何処の唄と、聞いたか」

「駿河と聞きました」