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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

また、人にも涙などは見せるものでないように、侍は躾けられている。

だが、藤吉郎はそうでない。

余り泣いているので、前にいた彼の召使のほうが、間が悪くなって、もじもじしていた。

「ああ、過っていた。……ごもっともな仰せだ。やはりわしの母上はお偉いな。……そうだ。まだまだ、一身一家の小さい欲望を考える場合ではない」

母の手紙を巻きながら、彼は独り言に、大きく呟いた。

涙がとまらない。……

その眼を、子どものように、肱を曲げてこすりながら、

「そうだ! ……。ここ少しのあいだは、戦争もなかったが、いつ御城下に、兵火が揚らぬとも限らぬ。中村におられた方が、母上や姉弟たちにも、無事でもあるなあ。……いやいや、そういう身勝手な考え方がそもそもいけないと仰っしゃるのだ。あくまで、御奉公第一に」

巻いた手紙を、額にあてて拝みながら、母がそこにいるように、

「――いや、おことば、よくわかりました。仰せのこと、きっと守りまする。あの男なら、お奉公も大丈夫と、殿も許し、人も許すほどになったら、改めて、藤吉郎がお迎えに参りますから、その時は、藤吉郎の住居へ、ぜひにもお移り下さるように――」