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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
その葉も靄があって、街路の燈がぼうとしていた。本屋の数で二三軒行った処に、和本を売っている処があって、そこには時どき珍らしい本が出るので、まずそこへ往って見たが、べつに買いたいと思うような本も見当らないので、神保町の電車の交叉点の方へと、道草を喫いながら歩いていた。と、むこうの方から五六人の会社員らしい洋服を着た一群が来て擦れ違ったが、その後から茶の立縞になったお召のような華美な羽織を着た女が来て、すぐ右側の路次へ入ろうとした。私はその羽織の色に親しみがあるように感じたので、顔をあげて見ると、その横顔から髪の工合が、広小路で見た女そっくりであった。
(おや)
私は立ち停った。女も私に気が注いたのか、斜に後を揮り返った。その顔の輪廓から眼の辺が、どうしてもお八重であった。私は声をかけようと思って、その名を口にしかけたところで、女はそのまま往ってしまった。私はその後から巷へ足を踏み入れながら、またその名を呼ぼうとしたが、もし空似の人があって、間違ってでもいたら、暗い巷の中ではあるし、変に思われてもならないと思ったので、また云おうとした口をつぐんでしまった。