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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
(そうですか、なあ)
彼はちょっと空の方を見た。薄い雲が流れてそれが網の目のようになっていた。彼はその雲を見た後に川の土手の方へ往こうと思って、板橋の上に眼をやったところで橋のむこう側に立ってこっちの方を見ている壮い女を見つけた。紫の目立つ銘仙かなにかの華美な模様のついた衣服で、小柄なその体を包んでいた。ちょっと小間使か女学生かと云うふうであった。色の白い長手な顔に黒い眼があった。彼はどこかこのあたりの別荘へ来ている者だろうと思ったきりで、それ以上べつに好奇心も起らないので、女のことは意識の外に逸してその土手を上流の方へ歩いて往った。
二丁ばかりも往くともう左側に耕地がなくなって松原の赭土の台地が来た。そこにも川のむこうへ渡る二本の丸太を並べて架けた丸木橋があったが、彼はそれを渡らずに台地の方へ爪さきあがりの赭土を踏んであがって往った。
そこには古い大きな黒松があってその浮き根がそこここに土蜘蛛が足を張ったようになっていた。彼は昨日も一昨日もその一つの松の浮き根に腰をかけて雑誌を読んでいたので、その日もまた昨日腰をかけて親しみを持っていた浮根へ往って腰をかけながら下流の方を見た。