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にっき

日記

宮本 百合子

31 一九四八年(昭和二十三年)

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 27,379 字 · 56 页

青空文庫

呉茂一氏は古典専門家としてギリシアのヘタイラ(女友いまの娼婦)のことをかき西紀前三〇〇年有名だった歌妓ラミアーが武勇並びなかったデーメートリオスにおくる手紙を(恋文)紹介していられる。

そのラミアーの手紙というのが、おそろしく曲線的な身をよじる現代女言葉でかかれている。ここから二つの疑問が出る。

ギリシア語に、こんな「わたくしとしたことが」という風な、また「お手許から多分におつかわしいただけましたらば、と申しますのも」という云いまわしがあったのだろうか。そしてギリシア語にも女言葉があったのだろうか。あんなに字を少ししかつかわなかったギリシア時代に?

もう一つは、ギリシア語にはそれほど著しくない女言葉の身をもむ風情を、呉氏は釈訳の文章で使っていられるのだろうか。という疑問である。

そして、もっとおどろいたことは、この『婦人公論』にのっている太田静子という若い女のひとの「斜陽の子を抱きて」という文章の曲線と、呉氏のギリシア歌妓の恋文の曲線とがよく似ていることである。

そして更に、こうして見ると太宰という作家がもっていた魅力は、女言葉的魅力であったことがうなずけるのだった。