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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

男なんか何とも思ってはいないんです。従って私に真実惚れていた筈はありません。第一もしほんとうに惚れているとしたら、こんな脅迫めいた文句の手紙なんか送って来られたものではないのです。私は今更あんな女に引っかかったことをひどく後悔しております。

夫婦約束といったって勿論いいかげんなものです。こんなことは常識で考えたってよく判る話です。あんな女とほんとうに夫婦になれるわけはありません。成程御示しの通りの手紙をやったことはあります。しかしそれは、カフェーの客がカフェーの女と恋愛遊戯に耽る時にするものでお互に本気になってそんなことを考えていたわけではありません。

腹の子だって勿論誰の子だか判ったものではないのです。芸者だのカフェーの女の腹の子をいちいち自分の子だと信じるのは余程馬鹿な男のすることでしょう。

一言でいえばむこうがむこうだから、此方も此方だったという次第です。

と、申しましても私のような家のものが、カフェーの女と関係して無事に別れられるとは思ってはおりませんでした。多少の金は出さなければなるまい、とは考えていたのです。然しこの度は相手の出方が如何にもひどいので、私もわざと自分から金の話には触れませんでした。