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あさくさふどき

浅草風土記

久保田 万太郎

雷門以北「東京日日新聞 夕刊」1927(昭和2)年6月30日~7月16日<br>吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年2月<br>続吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年3月<br>隅田川両岸「中央公論」1935(昭和10)年9月<br>浅草田原町「三田文學」1912(明治45)年2月<br>あやめ団子「花形」1920(大正9)年8月<br>相模屋の路次・浅倉屋の路次「新演藝」1920(大正9)年8月<br>浅草の喰べもの「中央公論 夏期特別號」1920(大正9)年7月<br>夏と町々「時事新報 夕刊」1929(昭和4)年6月1日~30日<br>絵空事「新潮」1932(昭和7)年3月<br>一年「東京新聞」1946(昭和21)年4月15日<br>浅草よ、しずかに眠れ「苦樂」1948(昭和23)年2月<br>夜店ばなし「婦人公論」1931(昭和6)年7月<br>除夜「週刊朝日」1930(昭和5)年12月28日號<br>正月「婦人公論」1932(昭和7)年1月<br>水の匂「文藝春秋」1941(昭和16)年7月<br>町々…… 人々……「別冊文藝春秋」1955(昭和30)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 页

青空文庫

嘗て、わたしは、丸の内の、高い建物と建物との間のおでんやの屋台のまえで、ほととぎすをきいたという話をだれからか聞いた。……ほととぎすというものに、わたしの、この話をきいたときほど現実感を感じたことはない……

*

夜店ほどよく季節を知っているものはない。ことに、この、夏に於てそうである。……といったら、すぐに、古本、古道具、日用品のいろいろ、四季いつのときでもかわることのないそれらの店の、律義に、透きなく並んだあいだに交っての金魚屋の荷をあなたは感じるだろう。虫屋の市松しょうじをあなたは感じるだろう。燈籠屋の、暗く、あかるく、月をうつしてまわるそれぞれのよるべない影の戯れをあなたは感じるだろう。……と同時に、風のない、星のひかりに満ちた、たかだかと霽れた空をまたあなたは感じるだろう……

が、このうち、最も早く、五月という声をきくと一しょに出そめるのが金魚屋である。そのあと一ト月、六月になって出はじめるのが虫屋である。そして、そのあともう一ト月、七月に入って、はじめてすがたをみせるのが燈籠屋である。……ということは、金魚屋の、いやが上にもあかあかと宵の灯影をうき立たせるその幾つもの荷は、涼しい水の嵩は、すぐもうそこに祭礼の来かけている町々のときめきを語り、虫屋の、ことさらに深い宵暗を思わせてしずまり