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あさくさふどき

浅草風土記

久保田 万太郎

雷門以北「東京日日新聞 夕刊」1927(昭和2)年6月30日~7月16日<br>吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年2月<br>続吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年3月<br>隅田川両岸「中央公論」1935(昭和10)年9月<br>浅草田原町「三田文學」1912(明治45)年2月<br>あやめ団子「花形」1920(大正9)年8月<br>相模屋の路次・浅倉屋の路次「新演藝」1920(大正9)年8月<br>浅草の喰べもの「中央公論 夏期特別號」1920(大正9)年7月<br>夏と町々「時事新報 夕刊」1929(昭和4)年6月1日~30日<br>絵空事「新潮」1932(昭和7)年3月<br>一年「東京新聞」1946(昭和21)年4月15日<br>浅草よ、しずかに眠れ「苦樂」1948(昭和23)年2月<br>夜店ばなし「婦人公論」1931(昭和6)年7月<br>除夜「週刊朝日」1930(昭和5)年12月28日號<br>正月「婦人公論」1932(昭和7)年1月<br>水の匂「文藝春秋」1941(昭和16)年7月<br>町々…… 人々……「別冊文藝春秋」1955(昭和30)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 页

青空文庫

しもたやはなおのことの、町々は、一年のはじめの日をまず安息に入った。……ということは、いつも出る広小路の夜店さえ、その晩にかぎって出なかった。

で、その、がらんとした、ひッそりした中を、門々の笹、しめかざりをならしていたずらに強く空っ風ばかりふきまわった。そして月が……霜に凝った月のひかりがまた、いたずらに白く、その笹の葉をすべって落ちた。

*

その空っ風の……笹、しめかざりを鳴らしてふきまわる、その空っ風のおもい出させるものに白襟の芸妓がある。

ということは、その空っ風のなかを座敷から座敷へいそぐ人々の、その抜けるような美しい姿である。笄を挿した髪、下げた帯、左の手にとられた褄。……月のない、ゆきずりの、そのあたりの闇の濃けれは濃いほど、その美しさはいや増した。

*

それにしても出の衣裳を着た芸妓たちの、その白襟のかげにほのめく肌じゅばんの襟の真紅のいろこそ、雪にうもれた寒紅梅の、この世での哀しくうつくしいもののきわみである。

出のうちに逢ふやくそくも寒さかな

黒髪に映ゆる櫛の照りの、笄の艶の。……わたしはこの句の作者にねたましさをさえ感じるのである。