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あさくさふどき

浅草風土記

久保田 万太郎

雷門以北「東京日日新聞 夕刊」1927(昭和2)年6月30日~7月16日<br>吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年2月<br>続吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年3月<br>隅田川両岸「中央公論」1935(昭和10)年9月<br>浅草田原町「三田文學」1912(明治45)年2月<br>あやめ団子「花形」1920(大正9)年8月<br>相模屋の路次・浅倉屋の路次「新演藝」1920(大正9)年8月<br>浅草の喰べもの「中央公論 夏期特別號」1920(大正9)年7月<br>夏と町々「時事新報 夕刊」1929(昭和4)年6月1日~30日<br>絵空事「新潮」1932(昭和7)年3月<br>一年「東京新聞」1946(昭和21)年4月15日<br>浅草よ、しずかに眠れ「苦樂」1948(昭和23)年2月<br>夜店ばなし「婦人公論」1931(昭和6)年7月<br>除夜「週刊朝日」1930(昭和5)年12月28日號<br>正月「婦人公論」1932(昭和7)年1月<br>水の匂「文藝春秋」1941(昭和16)年7月<br>町々…… 人々……「別冊文藝春秋」1955(昭和30)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 页

青空文庫

を、「早稲田文学」で「監獄署の裏」を、「中央公論」で「祝盃」及び「牡丹の客」を読んで、世にもこうした美しい小説があるものかと、密かにそう生甲斐を感じていたわたしである。いつも持ちあぐむ雷門から薩摩っ原までの間を、時間にして四十五分……わるくすると、だまって一時間かかる長い間を、ただもうわたしは夢みごこちにすごした。――その「新小説」に附いていた口絵の、飜る納め手拭の下、御手洗の水に白い手をさしのべた、若い芸妓の恰好をさえいまなおわたしは覚えている……

この作のわたしを魅了した所以は、一にこの作の主人公長吉の生活のうえにある。――という意味は、その弱い、寂しい長吉の性格のうちに、ゆくりなくわたし自身をみ出したからである。わたし自身の少年の日をみ出したからである。――が、もし、その長吉にして、そうした下町の育ちでなかったら、同時にお豊にして浅草の片隅に住むしがない常磐津の師匠でなかったら、松風庵蘿月にして向島の土手下に住む安気な俳諧の宗匠でなかったら、そうまでしかし無条件に、わたしは傾倒しなかったかも知れない。この作にみちた、美しい、すぐれたいろいろの自然描写。