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かいじょうはつでん
海城発電
泉 鏡花
「太陽 第二卷第一號」1896(明治29)年1月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 25 页
四
支那人が礼をいって捕虜を帰して寄越したのは、よくよくのことだと思え!」
いうことば半ばにして海野はまた感謝状を取直し、ぐるりと押廻して後背なる一団の軍夫に示せし時、戸口に丈長き人物あり。頭巾黒く、外套黒く、面を蔽い、身体を包みて、長靴を穿ちたるが、わずかに頭を動かして、屹とその感謝状に眼を注ぎつ。濃かなる一脉の煙は渠の唇辺を籠めて渦巻きつつ葉巻の薫高かりけり。
四
百人長は向直りてその言を続けたり。
「何と思う。意気地もなく捕虜になって、生命が惜さに降参して、味方のことはうっちゃってな、支那人の介抱をした。そのまた尽力というものが、一通りならないのだ。この中にも書いてある、まるで何だ、親か、兄弟にでも対するように、恐ろしく親切を尽してやってな、それで生命を助かって、おめおめと帰って来て、あまつさえこの感状を戴いた。どうだ、えらいでないか貴様達なら何とする?」
といまだ謂いもはてざるに、満堂たちまち黙を破りて、哄と諸声をぞ立てたりける、喧轟名状すべからず。国賊逆徒、売国奴、殺せ、撲れと、衆口一斉熱罵恫喝を極めたる、思い思いの叫声は、雑音意味も無き響となりて、騒然としてかまびすしく、あわや身の上ぞと見る眼危き、ただ単身なる看護員は、冷々然として椅子に恁りつ。