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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「でもねえそのようにおっしゃられれば、ほんにお雛さまは窮屈やもしれず……」
「お互い窮屈は厭なもので。そこで窮屈の内裏雛さまを、出してあげようではございませんか」
民弥はこんなことを云い出した。
酒の酔いにかこつけて、娘の云いそうな舌たるい、こんな他愛のない厭味なことを、冗談めかしく云い出したのではあったが、その本心は真剣で、そういってともかくも女男の人形を、箱より出そうとするのであった。
「それよろしゅうございましょうよ」
梶子も素直に同意した。
彼女は今は民弥の云うことなら、何んでも穏しく聞いてやろう、そうして充分歓心を得よう、そうして歓心を得た上で、こっちの望みもとげてやろうと、こう考えているのであった。
それに彼女は今夜あたりは、どうあろうと民弥を手に入れたいとそう熱望しているのでもあった。
(だんだん京都も近くなる。二人の道中も短くなる。うかうかしてはいられない)
こんな焦燥が感じられるのであった。
やがて人形は箱から出され、床の間に行儀よく据えられた。
人形は美しく上品であった。
やはり特別に目立つのは、男雛の太刀柄につけられてある、素晴らしく高価な宝玉と、女雛の冠につけられてある、同じ高価な宝玉とであった。