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げんだいゆいぶつろんこうわ
現代唯物論講話
戸坂 潤
「現代唯物論講話」白揚社、1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 251,295 字 · 490 页
尤もここで云う思想とは、必ずしも哲学や科学の学術的体系のことではない、また所謂イデオロギー(社会理論上の定説に基く観念形態)や社会思想にも限らない。寧ろ例えば一切の文芸に於て作品の存在理由として働いている処のものが、すでに思想でなければならないのである。思想のない文芸作品は元来何等文芸としての存在理由を有つものではない。それがなおかつ存在しているとすれば何かもっと別の意義としてであって、例えば娯楽や技(わざ)のレコードというような意義としてであるが、それとてもそのどこかに本当に思想とのつながりがないならば、娯楽にもならぬし、技のレコードを保存する理由もなくなるのである。思想は、科学や哲学は云うまでもなく、文芸から始めて一切の芸術に一貫するものであり、更に道徳・宗教・についてもその文化的内容をなすものだ。道徳や宗教は往々文化の内に数えられない場合もあるし、又数えてはならぬ場合も多いと思うが、少なくともその文化内容をなす部分は、正に思想に他ならない(拙著『思想としての文学』及び『思想と風俗』参照)。
こうなると、思想というものが文化の一般的性質を云い表わす最も手近かな観念であると云っていいことになるだろう。