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かがりびのおんな
篝火の女
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 页
その酬われる日は遂に来た。今夜こそ愛人に会える。愛人の兵馬はもうすぐそこの利根川原へ来ているのだ。自分のために、幾多の兵馬を犠牲にし、自分の一命をも陣頭に置いて、闘ってくれているのだ。
(勿体ない!)
黄金の輿、珠玉の輦もおろかである、女一人に、あまりに冥加にすぎた迎えであると八雲は思った。闇を走りながら、瞼の熱くなるのを覚えた。
そのかわりには、自分が、妻となったあかつきには、この千倍も良人の為に尽そう! この万倍も部下の兵たちを愛してやろう!
『わあっ……。わあっ……』
八雲はもう鬨の声の中だった。
弾丸が来る。――誰とかもわからぬ槍が突っかけて来る。腸を出した馬の腹が、横たわっていたり、旗差物の竿だけをつかんでいる兵が、
『畜生っ、畜生ッ』
虫の息で、死骸の中を這っていた。
『三郎様あッ……』
彼女の黒髪は、血なまぐさい闇を衝いて駈けまわった。
ざ、ざ、ざ、ざッ――と真っ黒な一群の騎馬武者が、夕立のように此っ方へ向って駈けてくる。北条勢に備えをくずされた前線の旗本らしかった。
『あれだ!』
八雲は、奔馬の群を待っていた。そして、先頭の華やかな武者のあぶみへ縋って、