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かがりびのおんな

篝火の女

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 页

青空文庫

『三郎様ではございませんか』

『ちがう!』

武者は、弓で、彼女を払った。

卯の花縅しの草摺をゆりうごかして、戞々と、退いて来た強者がある。

『もし! 安中三郎様は、どこにおいで遊ばすか』

『知らぬ』

駒の尾が、彼女の顔を払って通った。

彼女は怯まなかった。続々と来る後続隊の将に又すがって、

『おたずね申しまする。あなた方は、もしや安中城の方々ではございませぬか』

『いいや』

訊かれた部将は、かぶりを振るだけなのである。

『では、あまり急いで、陣をまちがえたか』

と、八雲は、戦場に捨てられてある駒をひろって、半里ばかり鞭を打ってとんだ。そこにも、累々たる死骸と、先の兵馬とは比較にならない意気を持った将卒が、八方へ敵を駈けちらして首をあげる毎に、名乗り揚げ、勝鬨をあげして、しかも整々と陣形をすすめていた。

『――これこそ、上杉家の家人、安中三郎進様の御本陣』

彼女は疑いを容れなかった。

まっしぐらに、その本陣とも思える旗本の中へ馬を乗りいれて、

『八雲です! お迎えをいただいた八雲でござります! 三郎進様にお取次ぎくださいませ』

鞍をとび下りていうと、七、八名の旗本がどっと取り囲んで、