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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
―――もうこれにしとき」
雪子と妙子とは先に着附を終っていて、幸子だけが後れているので、妙子は子供を賺すように云いながら、又その帯を持って姉のうしろへ廻ったが、漸く着附が出来たところで、幸子はもう一度鏡の前に坐ったかと思うと、
「あかん」
と、頓狂な声を出した。
「―――この帯もあかん」
「何でやねん」
「何でて、よう聞いてて御覧。―――ほれ、これかてキュウ、キュウ云うてるがな」
そう云って幸子は、わざと呼吸をして帯のお腹に当るところを鳴らしてみせた。
「ほんに、云うてるわ」
「そんなら、あの、露芝のんは」
「どうやろか、―――ちょっとあの帯捜して見て、こいさん」
三人のうちで一人洋装をしている妙子は、身軽に彼方此方と、そこらに散らばった畳紙の中味を調べてみて、それを見附けると又姉のうしろへ廻った。幸子は結ばれたお太鼓の上を片手でおさえて、立ったまま二三度息をしてみて、
「今度はええらしい」
と、口に咬えていた帯締を取って中へ通したが、そうしてきちんと締めてしまうと、又その帯もキュウキュウ云い出した。
「何でやろ、これもやわ」
「ほんになあ、うふふふふふ」
幸子のお腹のあたりが鳴る度に三人が引っくり覆って笑った。