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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

「うふふふふふ、袋帯を止めにせなあかん、袋帯云うもんがあかんねんわ」

と、雪子が云った。

「いや、袋帯のせいやあれへん、地質のせいやわ」

「そうかて、近頃の袋帯は皆その地質のもんばかりやないか。その地質で、それが袋になってるよってに尚のことキュウキュウ云うねんが」

「分った、中姉ちゃん、分ったわ」

と、妙子が又別な帯を引っ張り出した。

「これして御覧。これやったら音せえへんやろ思うわ」

「それかて袋帯やないか」

「ま、うちの云う通りにしてみなさい、どう云う訳で鳴るか云うことが分ったよってに」

「もう一時過ぎやわ。早うせなんだら済んでしまう。今日みたいな会は正味演奏する時間ほんちょっとしかあれへんで」

「そうかて、雪子ちゃん、自分が帯のこと云い出したんやないか」

「そんでも折角聴きに行くのんに、あんな音が耳についたらどうにもならへんもん」

「ああ忙しい。解いたり締めたり何遍もせんならん。汗掻いてしもたわ」

「阿呆らしい、うちの方がしんどいがな」

と、妙子がうしろで膝をついて、ぎゅうっと締め上げながら云った。

「注射は此方でなさいますか」

と、お春が盆の上に、消毒した注射器、ベタキシンの箱、アルコールの罎、脱脂綿入れ、絆創膏、等々を載せて這入って来た。