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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
「乾杯しましょう。」と周はグラスを挙げた。
「菅原君の幸福のためにも。」と北村は言った。
「菅原君、どうも、彼女は君を愛してるらしいよ。」
菅原は珍らしく顔を赤くした。それが北村には嬉しかった。
北村は松本千重子に電話をかけた。なんどやっても先方に通じなかった。それから停電となり、蝋燭の火で酒を飲んだ。再び電燈がついてから後、暫くして電話が通じた。菅原が帰ったことを知らせたが、千重子は黙っていて、何にも尋ねなかった。そのことがへんに北村の気にかかった。
周が取り寄せたウォートカは、芳醇で強烈だった。その合間には日本酒も味が増して感ぜられた。北村は殆んど料理に手をつけず、ただ飲んだ。思わず深い酔いに陥っていった。酔いの底からぼんやり、菅原と周と本堂と、この三人は何のために集まってるのだろうと、妙なことを思った。
「私はもう御免蒙って帰るよ。」
よろよろと立ちかけると、いつのまにか来ていた芸者が、体を支えるようにして逆に坐らせた。
「外はあぶないわ、こんな嵐ですもの。」
「なに、そんなら君はどこから来た。」
「天から降って来たのよ。もうお忘れなすったの。そんなぺらぺらな着物、まるで天の羽衣みたいだって、あちらで、なんども仰言ったじゃないの。