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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

病気で寝ついているのならとにかく、家の中や庭をいつも歩き廻って、戸締りなどをやかましく言いますのに、一方ではそうなんでしょう。おかしくはございませんか。こないだなんか……。」

言いかけて、富子はぱちぱち目ばたきをして口を噤んでしまった。そうなると、もう彼女は決して先を言わないのである。北村は何も尋ねなかった。第一、先日といい、今日といい、ふだん無視されがちな北村へ向っての彼女の打ち明け話なるものが、そもそも変梃なのである。打ち明け話というよりもむしろ、彼女の独白なのであろう。じっと聞いていてやればよいのだ。何か質問でもしたら、恐らく彼女は、貝が貝殻をぴたりと閉じるように、驚いて唇を閉じてしまうだろう。うっかり自分の心に響くことを言い出しても、驚いて口を噤んでしまうのだ。触れないに限る、触れないに限る。そのように北村は感じた。当らず障らずの受け応えをしてる北村へ、富子は妙なことを尋ねかけてきた。

「あなたは、鵞鳥の絵をおかきになったことがございましょうね。」

「鵞鳥の絵ですって……よく覚えていませんが………あ、ありますよ、鵞鳥の群れを、風景の一部に取り入れたことがありました。